ただの流行ではないブロックチェーン: ビジネスにおけるその意味とは

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ただの流行ではないブロックチェーン: ビジネスにおけるその意味とは

ブロックチェーンの話題には飽き飽きという読者もいると思いますが、もう少しだけ読み進めてみてください。テクノロジーはいま、働き方、働く内容、そして働く場所について根本的に再考する機会を与えてくれているのです。ブロックチェーンの持つ強力な影響とフレキシブルな働き方におけるその意味について、ハンナ・ハドソンが掘り下げます。

 

ブロックチェーンは単なる流行語ではありません。ビットコインを支えるテクノロジーが、私たちの考え方やビジネスのやり方をどのように方向づけていくのかということに関心が高まっています。銀行取引からデジタル著作権管理まで、ブロックチェーンは、ビジネスにおける顧客対応、個人取引、IoT(モノのインターネット)デバイスの操作など、あらゆる産業分野間における手法を変容させてしまう可能性があります。

ブロックチェーンとは?

簡単に言えば、ブロックチェーンとは安全性を確保しつつ、高速かつ透明性の高いデータを共有することによって、複雑な取引を簡素化し最適化するテクノロジーです。ブロックチェーンは、インターネット上の複数の場所で行われるオンライン取引(価額、モノ、サービス、個人データなど)の一つひとつを記録します。この記録はブロックと呼ばれ、各ブロックには過去に行われた取引に関する暗号化された履歴(チェーン)が記載されています。

重要性の理由

ブロックチェーンは、ビジネスをよりスマートかつ高速に進めるのに役立つ可能性を秘めています。現在、銀行間決済、コンテナ追跡、ダイヤモンドの所有権・真正確認、学歴の検証など、様々な用途が検討されており、中にはすでに実用化されているものもあります。

グローバル企業もブロックチェーンに注目しています。5億ドル以上の年間収益を上げている企業の上級役員を対象に実施した、デロイトの2016年12月の調査によると、28%の企業がブロックチェーンテクノロジーに対してすでに500万ドル以上の投資を行っており、10%の企業が1,000万ドル以上の投資を行っていました(※1)。

いったい何がその熱意の原動力なのでしょうか?1/3以上の役員は、ブロックチェーンを活用することによってコストの低減や速度の向上によりシステム運用を改良できると考えています。1/3以上(37%)の回答者は、ブロックチェーンテクノロジーの主なメリットとして、優れたセキュリティ機能を挙げています。また、約1/4(24%)の回答者は、新しいビジネスモデルや収益の流れを実現する可能性について言及しています。

ブロックチェーンはビジネスのやり方にどのような変革をもたらすか

ブロックチェーンの可能性を理解するには、「スマートコントラクト」について知る必要があります。スマートコントラクトは、コードによってトリガーされるブロックチェーンの約束事をそれぞれどのように機能させ、データ交換を実行させるかという、運用規則の設定に必要になります。

ブロックチェーンの先駆者であるニック・スザボ氏は、デジタルアセット業界団体「Chamber of Digital Commerce」のホワイトペーパーで次のように述べています。「一般的な自動販売機がスマートコントラクトの原型です。本質的に、自動販売機は『入れ物の中に入っている現金の額を、入れ物を破壊するのにかかる費用よりも少なくしておく』というセキュリティ機構です。さらに自動販売機は、顧客の希望する商品を提供し、計算して釣銭を渡すという、取引の本質機能も持ち合わせています(※2)」

また、次のようにも述べています。「スマートコントラクトによって、複雑な計算処理に必要な人件費を削減できるため、以前には不可能だった新しい種類のコントラクト(契約)が可能になります(※3)」例えば、会社に大量の商取引記録がある場合、スマートコントラクトは、「統一商事法典(米国の商事モデル法典)」の内容をデジタル化し、更新・解除プロセスを自動化することができます。

国際的な商品取引を扱うビジネスの場合、ブロックチェーンによる迅速な信用状の発行、貿易決済の促進を通じて、流動性の高い金融資産を維持しながらビジネスを促進することができます。

金融機関では、スマートコントラクトを活用することで、組織全体で正確かつ透明性の高い金融データ記録を残せるため、財務報告プロセスが改善され、監査・保証コストを削減することができます。

さらに、スマートコントラクトによってサプライチェーンの各段階における可視性を実現することができます。IoTでは、商品が工場から店舗に移動するプロセスにおいて、デバイスによるスマートコントラクトへの書き込みが可能になるため、企業全体のサプライチェーンにおける可視性をリアルタイムで確認することができます。

ただの流行ではないブロックチェーン: ビジネスにおけるその意味とは

ブロックチェーンのパワーを活用すればビジネスをよりスマートに運営できるかもしれません

 

雇用にもたらす影響

「ブロックチェーンは、経済の水平化に優れた効果をもたらすかもしれません」『ブロックチェーン・レボリューション ― ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか』の著者であるドン・タブスコットとアレックス・タブスコットは、同書でこのように予測しています。経済から中間業者を排除することによって、真の価値を創造する製造者や実行者が恩恵を受けることになると言います。

しかし、銀行家、弁護士、ブローカーなど、一部の第三者仲介業者への依存を軽減することができる一方で、必ずしも手作業労働を排除するものではないようです。ブロックチェーンプラットフォーム「イーサリアム」の設立者ヴィタリック・ブテリン氏は、「多くのテクノロジーは単純作業に携わる労働者を自動化する傾向にありますが、ブロックチェーンはセンターの役割を自動化するのです。タクシー運転手を排除する代わりに、ブロックチェーンはUberの業務を排除し、タクシー運転手が利用者にサービスを提供できるようにするのです」と述べています。

ブロックチェーンはまた、暗号通貨や他の関連ビジネスにおける新たな役割に対する触媒になります。金融機関に所属する役員を対象にした2017年の調査では、ブロックチェーン関連の人材確保に対する競争率についての言及が顕著に見られました。回答者の51%がトレーディングテクノロジーの人材について、47%がプログラマーを、44%がアナリティクスのスキルを持つスタッフを求めていると回答しました(※4)。

雇用や研修の形態は変わるのか

将来予測会社「Fast Future(※5)」の編集者であるアレクサンドラ・ウィッティントン氏とロヒット・タルワ―氏は、次のように話します。「ブロックチェーンによって、マネージャーや人材担当者が個人の研修履歴について永久的かつ転送可能な記録を作成することができます。従業員が複数の職場に配置されている場合、ブロックチェーンに基づく学習管理システムによって、雇用者が社員全員参加のウェビナーから健康カウンセリングまで、従業員が行ったすべての学習・開発アクティビティに関する最新情報を確認することができます」

雇用においても、個人が管理し独立行政法人が認証を行う本人確認機構により簡素化が可能です。「私たちのデータは現在、LinkedInのような集中型プラットフォームによって所有され、収益化されていますが、将来的にはブロックチェーン型の台帳が従来の履歴書に取って代わることになるかもしれません」とタルワ―氏は言います。

タルワ―氏は、ブロックチェーン認証型履歴書を売り出したスタートアップ企業「APPII」を例に挙げています。このブロックチェーン認証型履歴書を利用すると、人事採用担当者や有望な受け入れ先、その他の第三者が、学位、専門的な資格、関連部門会社での役職の有無などを確認することができるのです。

ブロックチェーンがもたらすリモートワーカーへのメリット

「ブロックチェーンテクノロジー固有の機能をいくつか活用することで、より公正で効果的な次世代型ワークプラットフォームを構築できるようになります」と、啓発団体「RSA」の戦略的ワークフォースアドバイザーである、アンディ・スペンスは述べています。「雇用現場では、偏見や先入観、雇用可能な人材に関する可視性の不足、集中型ソーシャルネットワークにおける信頼性の低さ、迷惑メール、仲介業者の高額な手数料などの問題が発生しています。ブロックチェーンにより、適切かつ意欲的な人材とのマッチングが可能になります(※6)」

スペンス氏は、雇用主と労働者の間でスマートコントラクトを活用し、労働者への給与支払いを安全・迅速に行うことによって得られるメリットを強調しています。「これによって、労働者への給与の延滞や短期キャッシングへの依存により生じるキャッシュフローの問題を軽減することができます。ブロックチェーン(および他のテクノロジー)

また、このテクノロジーによって、従業員が遠隔データに、より安全にアクセスできるようになります。MITメディアラボによるスタートアッププロジェクト「Enigma」は、ブロックチェーンのプライバシーとセキュリティにおけるメリットを活かし、プライバシーを保護する分散型のクラウドプラットフォームを開発しました。Enigmaは、他者との共有データを暗号化して保護することによって、他者に公開することなくデータの保管・共有・解析を可能にします。

職場にもたらされる変化

「ブロックチェーンによるワークプロセスの自動化と効率化によって、社員数やオフィススペースの要件を削減することができます」とFast Futureのウィッティントン氏は話します。「これによって、会社はオフィスビルを閉鎖することになり、フレキシブルな働き方や、住宅地や顧客の所在地に近いコワーキングスペースを活用することになるでしょう」

タルワ―氏も次のように付け加えています。「近い将来、自律分散型組織(DAO)として運営されるコワーキングスペースが登場するでしょう。このような従業員の少ない組織では、スマートIoTセンサー、AI、ブロックチェーンを組み合わせ、スマートコントラクトにより発効させた事前合意条件に沿って、作業環境の管理、テナント契約書の発行、自動請求、テナント料の回収が行われるようになるはずです」

 


ハンナ・ハドソンは、リージャスのマガジンの編集者です

出典:

(※1)https://www2.deloitte.com/us/en/pages/about-deloitte/articles/press-releases/deloitte-survey-blockchain-reaches-beyond-financial-services-with-some-industries-moving-faster.html

(※2)https://digitalchamber.org/wp-content/uploads/2018/02/Smart-Contracts-12-Use-Cases-for-Business-and-Beyond_Chamber-of-Digital-Commerce.pdf

(※3)https://digitalchamber.org/wp-content/uploads/2018/02/Smart-Contracts-12-Use-Cases-for-Business-and-Beyond_Chamber-of-Digital-Commerce.pdf

(※4)http://uk.businessinsider.com/the-uk-has-a-blockchain-talent-problem-2017-7

(※5)http://fastfuturepublishing.com

(※6)https://www.thersa.org/discover/publications-and-articles/rsa-comment/2018/02/blockchain-platforms-can-enable-good-work