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アルゴリズムは、スタッフ管理の方法を変えられるか

「ピープルアナリティクス」としても知られるビッグデータは、採用と従業員の定着率を促し、次のオフィスをどこにするべきか決めるのに役立ちます。ジェームズ・デイがレポートします

 

2011年にブラッド・ピットが主演した映画「マネーボール」では、ある野球チームが、パフォーマンスデータの分析結果のみに基づき、優れたチームメンバーを集めます。この映画によって、人をマネジメントすることは人間が行う仕事のように見える一方で、データが変革をもたらすことを示しました。

舞台を球場から職場へと移すと、ビッグデータは優れた人材を効果的に採用して離職を防ぎ、費用を削減して多様性を向上させるのに役立てられています。これこそがピープルアナリティクスの世界です。グローバルな人材管理会社であるLeathwaite(1)によると、ピープルアナリティクスを導入している企業は、競合他社よりも30%業績が向上しています。

ピープルアナリティクスとは何を意味するか

ピープルアナリティクスというと出会い系サイトのアルゴリズムのように聞こえるかもしれませんが、実際は、人間の行動、関係、特質に関するデータを用いて、優れたビジネス上の意思決定を行う方法なのです。どの候補者を採用すべきか、誰を昇進させるべきか、退職を検討しているのは誰か、その人は昇給に見合う働きをしているか。ビッグデータから確かな証拠が手に入ります。

人気が高まっている理由

テクノロジーは既に存在しています。人々は、このテクノロジーを賢く活用する知識を身につけ始めたばかりです。この良い例が採用です。「テクノロジーによって求職者に関するインサイトが得られ、企業はもはや誰を採用するか、チームをどのように組み立てるか、どこにオフィスを置くか、競争力のある人材戦略をどのように立てるかなどの点で「勘に頼る」必要がなくなったのです」と、LinkedIn(2)のタレントソリューション責任者であるジョン・アディソン氏は語っています。

ピープルアナリティクスによってマネージャーはデータからメリットを得られるようになります。なぜなら、人材を見つける場所や引き付ける方法、従業員の離職を防ぐ方法に関する数十億ものインサイトに、リアルタイムでアクセスできるからです。

「人材戦略におけるインサイトと分析の役割が大きくなっているのは明らかです」とアディソン氏は言います。「この原因の一部として、限られた人材プールの中で企業が優秀な人材を奪い合う、競争の激しい環境において、今後の労働力計画と、スキル要件へのニーズが高まっていることが挙げられます。10~15年後にはどうなっているか予測している企業にとって、効果的にチームを管理し、企業全体において長期的な成功を確かなものとするために、かけがえのないツールとなりつつあります」

採用のためだけのものか、他にも用途はあるのか

ピープルアナリティクスは、他にも利用価値があります。例えば、スタッフの費用削減です。MITのレポート(3)によれば、新しい従業員を求人、採用、トレーニングするためには、給与の1.25倍のコストがかかります。ですから、スマートに採用しスタッフの離職率を下げることには、魅力的な費用対効果があります。

企業は、履歴データを見ることで、従業員が退職する理由やタイミングのパターンを特定し、予測できるようになり、最終的にはコストを削減できます。従業員が企業を離れる原因を特定できれば、たとえそれが1人のマネージャーにあるとしても、耐えがたい通勤にあるとしても、または昇給や昇進がないことであっても、問題になる前に経営陣がその状況に対処できます。

また、ピープルアナリティクスは、リーダーシップ育成の情報も提供してくれます。これまでのパフォーマンス、成功事例、その他のメトリクスをトラッキングすることで、現在の従業員のうち、誰が会社を離れる同僚の後を継ぐのにふさわしいかを特定できます。何が彼らのモチベーションとなるかについても明らかにしてくれます。

ジョン・アディソン氏、LinkedInのタレントソリューション責任者

ジョン・アディソン氏、LinkedInのタレントソリューション責任者

 

他にどのようなメリットがあるか

マッキンゼー・グローバル・インスティテュートが最近行ったグローバルな研究(4)によれば、ジェンダーの多様性に富む企業のパフォーマンスは15%高く、民族的に多様な企業の場合は35%高いことがわかりました。ピープルアナリティクスは、多様なスタッフの求人、採用、雇用維持をトラッキングし、管理できます。

また、ピープルアナリティクスは、後に詳しく説明する埋もれた専門性を特定し、社内のベストプラクティスの分野を強調します。

現代のビジネスはどのようにピープルアナリティクスを活用しているか

最近、Harvard Business Review誌はマイクロソフトのワークプレイス・アナリティクス部門と共同で、ピープルアナリティクスを活用している複数のFortune 500企業を観察しました(5)。

その1つの例に、埋もれた専門性を見極める、ある企業のプロセスの測定が含まれていました。あるグローバルなコンシューマー向け消費財企業が、世界中の子会社で、特定の月次財務プロセスにどれだけ異なる方法で取り組んでいるかを調査しました。その結果、ある国はタスクを完了する効率が16%高く、毎月71人時相当のタスクを40人少ない従業員数で完了できていることがわかりました。企業だけでなく、その会計チームもこの事実に気付いていませんでした。その後この会計チームは他の子会社のプロセスを改善するパートナーとなりました。

マイクロソフト自体も、ピープルアナリティクスを使って隠された才能のエコシステムを発見できました。サイバーセキュリティ専門家の採用にあたり、本社のあるレドモンドでの採用のみという慎重な制限を設けていたのですが、データによって人材が豊富な別の場所が判明したのです。そこは、マイクロソフトが既に非常に小さなオフィスを構えていた場所でした。こうした貴重なインサイトを手に入れているということは、ビジネスリーダーがその都市にもっと投資を行い、人数を増やす必要があることを知っていたということであり、マイクロソフトは最善の人材を最善のロケーションで採用できました。

新たな未来

ピープルアナリティクスは、経験談や階層、リスク回避に基づいた意思決定を、データ分析、予測、実験的調査に基づいたクオリティの高い意志決定に置き換えることができます。

直感も未だに一役買っている一方で、誰を採用するか、どのようにチームを構造化するか、どこに新しい拠点を設けるべきか、そしてどのように人材を獲得するかといった意思決定にビッグデータは救いの手を差し伸べてくれます。労働力に関する正確で信頼できるデータを、リアルタイムで初めて入手できるようになったのです。

 


ジェームズ・デイはStuffマガジン編集者、『The Gadget Show』アソシエイト・プロデューサーであり、デザインと建築の専門誌Enkiのテクノロジー専門特別編集者でもあります。

出典:

(1)https://www.leathwaite.com/hr-analytics-whitepaper/

(2)https://business.linkedin.com/talent-solutions/blog/product-updates/2018/linkedin-talent-insights-now-available

(3)http://web.mit.edu/e-club/hadzima/how-much-does-an-employee-cost.html

(4)https://www.mckinsey.com/~/media/mckinsey/business%20functions/organization/our%20insights/
why%20diversity%20matters/diversity%20matters.ashx

(5)https://hbr.org/2018/05/how-people-analytics-can-help-you-change-process-culture-and-strategy